第94章 強制的
「それが分かるくらいには、成長しているだろ?」
ぽんぽん、と彼の手が私の頭を優しく叩いて。
・・・ああ、そういう返し方もあるかと感心さえしてしまう。
これでは、どちらとも取れてしまう。
私がFBIからあの男の事を知らされている事を知っているか、単純に彼の考えで外出禁止を言い渡したのか。
FBIとの接触を減らす為とも思えるけど。
「・・・いつまで?」
「僕が良いと言うまでだ」
彼がそう言うのであれば、そうはするが。
でもそれは、これが本当に必要なことだった場合だ。
「それは、公安としての命令?それとも・・・零の?」
私が外出した事により、公安に迷惑が掛かるのであれば、勿論大人しく従う。
けれど、零の単純な心配等からの命令なら・・・それは。
「どちらもだ」
どちらも、か。
・・・そう言われてしまうと、何も言い返せない。
「そっか」
納得の言葉は口にしたが、一つも納得なんてしていなくて。
不満も、不安も、全てを飲み込んでしまうように、ハーブティーを一気に飲み込んでしまえば、ようやく心に落ち着きが見えたように感じた。
「・・・ひなた」
「?」
空になったカップを置くと、彼は改まったように名前を呼んで。
何か、と零へ視線を向けると、その手は徐ろに後頭部へと回された。
ああ、これは。
なんて脳裏で考える事ができるくらいには、自分でも驚くくらいに冷静さがあった。
「・・・っ」
咄嗟に目を瞑ると、体を強ばらせてはその時を待った。
目を瞑る必要も、体を強ばらせる必要も無かったのだけど、条件反射というものからで。
「・・・!」
でも今回のそれは、時折ある予想外の場所へのキスだった。
今日は、頬へ。
その理由はすぐに分かった。
「気にし過ぎだよ・・・」
固くとじていた瞼を開いては、優しい眼差しを向ける彼にそう言った。
頬への傷。
そこに彼の唇は優しく触れたから。