第94章 強制的
「ごめん・・・ポアロね・・・、分かった」
あとはバーボンに・・・と、何とか耳に入った部分だけを復唱して確認した。
どこか血の気が引いてしまうような感覚の中、自分を落ち着かせるように、ハーブティーへと口をつけて。
「・・・・・・」
それに零が違和感を感じないはずがない。
分かっている。
彼からの視線で、何を言いたいのかくらいは。
「・・・何かあったのか」
こういう質問をさせてはいけないのに。
不安にさせたり、要らない心配を掛けてはいけないのに。
上手くできないものだな。
「ううん、ちょっと疲れちゃっただけ。・・・それで、明日はどうすれば良い?」
話を切り替えれば、気持ちも同じくそうなると思ったけど。
残念ながら、心拍数は落ち着きを見せることはなかった。
「明日は朝から僕と居てくれ」
「分かった」
なるべく冷静に。
そう言い聞かせながら、ハッキリと返事をして。
ということは、バーボンと一日過ごす事になる予定だろうか、と頭の中で思いながら、ハーブティーの入ったカップを握り締めた。
結局、彼と居ても問題無いのだろうか。
あの男が、零といる時を狙って何か仕掛けてくるとも限らない。
でも零はあの男が生きていることを知っている。
零が決める行動に問題があるとは思えない。
・・・そもそも、死を偽装してまで、あの男が私につきまとう理由も分からないが。
当初言っていた理由を成し遂げていないという理由であれば・・・相当執拗い人間である事は確かだ。
「・・・それと、もう一つ」
彼がその言葉を口にした瞬間の心臓は、痛い程に強く反応した。
耳にまでその音が響いてきそうな程、ドクンッ、と大きく。
「僕が傍にいない間、一歩も外には出るな」
再び予想とは反した言葉だったけれど。
それにはそれで目を丸くした。
・・・随分極端な命令だな、と。
「どう、して・・・?」
これに答えはきっと・・・。
返ってこないだろうけど。