第94章 強制的
「ひなた」
「は、はい・・・っ」
ソファーに座っていた所を、背後から彼に突然呼ばれて。
思わず、敬語で返事をしてしまった。
「ハーブティー、飲むだろ?」
「う、うん・・・ありがとう・・・」
ああ、ダメだ。
変に身構えてしまっている。
こんなあからさまに緊張していたら、すぐにバレる。
いや、敢えて隠さないという選択肢も無い訳ではないが。
視界をどこにやって良いのかも分からず、結局落ち着きなく目を泳がせていると、カップに入ったハーブティーを運んできた彼が隣に座って。
「・・・話って?」
もう早く楽になりたい。
そんな思いから、話は自分から切り出した。
「・・・・・・」
でも、彼はすぐに話をしようとはしなくて。
沈黙の中、私もそれ以上は何も言わず、ただ静かに彼を待った。
「・・・悪いが」
ようやく口を開いた彼だったが、その口調や表情は重く、決して良いものとは言えなかった。
「ポアロは長期休暇に入ってくれないか」
「・・・?」
ポアロ・・・?
「バーボンでいる間、僕の隣に居てほしい」
・・・あれ。
これは。
「降谷零である時はなるべく離れて・・・」
あの男の話じゃ・・・ない?
「・・・これ以上はきっと・・・」
勝手にそうだと決めつけていた私も悪いけど。
・・・気が、抜けたのだろうか。
これはこれで大事な話なのに。
全く彼の言葉が耳に入ってこない。
「・・・ひなた?」
名前を呼ばれているのが分かっているのに。
上手く返事ができなくて。
「ご、ごめん・・・ちょっと待って・・・」
妙に絡まった思考回路を直すように、額に指先を置いては視線を落とした。
・・・何だろう。
何なのだろう、この感覚は。
ただの拍子抜けのようなものでは無い気もする。
これは・・・この感情は・・・。
「大丈夫か・・・?」
・・・失意?
いや、そんなまさか。
「ひなた?」
まだ、これで終わりだとは言っていないじゃないか。
今はちゃんと、彼の話に耳を傾けなければ。
・・・助手としても、愛人としても、恋人としても失格になってしまう。