第93章 重ねて※
「反対側のビルから、車ごと突っ込んだ」
「!?」
平然とそう言ってみせる彼に、驚いて言葉も出なくなった。
その後、詳しくその時の状況を教えてはもらったが、立て続けに話される現実離れした内容に、これ以上は脳がどうにかなってしまいそうだった。
「だから迎えを頼んだの・・・」
「まあ、そんな所だ」
てっきり怪我で帰れないのだと思っていたけど。
いや、それも勿論あるだろうけど。
そもそも帰る手段を失っていたなんて。
それだけの無茶をしておいてこの怪我で済んでいるのなら、寧ろ軽症と言えるのでは。
「・・・?」
そんな会話の合間に、突然彼の指先が私の頬に触れて。
そこに向ける視線は、悲しそうにも怒っているようにも感じられた。
「ここの電球が割れたのはきっと、IoTテロが発生した時だろうな。ここの電球もIoT家電だった」
・・・成程。
そういえば事件の話を聞く中で、そんな話もされたな、と思い出して。
まさかここの電球も、IoT家電だったとは思いもしなかったが。
「他に、怪我はしてないだろうな」
「してない。大丈夫」
大袈裟にも感じる零の心配に困った様に笑ってみせると、いきなり彼に体を引き寄せられ、強く強く抱きしめられた。
「・・・れ、い・・・?」
「傷が残らなければ良いんだが」
名前でその行動の意図を尋ねると、彼は苦しそうな声でそう言った。
相変わらず、自分の事には大雑把なくせに、私への心配は過剰過ぎる。
「・・・残っても別に良いよ」
その心配性が彼の首を絞めないか、今でも時々不安になる。
「傷が残ったら、零は私の事いらない・・・?」
こういう時、彼の優しさを利用するのは卑怯だと分かっている。
「・・・そういうのが意地悪だと言うんだ」
分かってるよ。
そう言うように微笑んで見せると、零は顔を顰め、小さく溜息を漏らした。