第93章 重ねて※
「でも君は、コナンくんを選んだ」
選んだ・・・というよりは、選ばざるを得なかったというのだろうか。
勿論、正しいと判断すれば・・・最初から事情を話してくれていれば、公安にだって協力はしただろうけど。
彼が言うように、そうさせなかったのは公安側だ。
「あの時、ひなたは公安が間違っていると判断したと言ったな。今、その判断は間違っていたと思うか?」
今度は、真っ直ぐ私を見て。
あぁ、やっぱり綺麗な瞳だな。
なんて事を考えるくらいには、考えに余裕があった。
「・・・思わない」
キッパリそう答えると、数秒後に彼の表情は柔らかいものに変わって。
「それで良い」
そう言いながら遠くを見つめる彼は、どこか残念そうでもありながら、諦めているようにも見えた。
「これからは、自分の正しいと思う考えを貫け。それが僕に背いたり・・・」
次の言葉が来るまでに目つきの鋭さが加わって。
「・・・僕が犠牲になるような考えでも」
そう、付け加えられた。
でも、彼のその言葉には、すぐに返事ができなかった。
・・・できるはずがない。
はい、なんて無責任なことも。
いいえ、なんて我儘なことも。
言えるはずなかった。
「組織では甘い考えなんて通用しない。でもひなたにはまだ時折、その考えがある」
彼が眠りに落ちる前、同じような言葉を口にしていたことを思い出して。
「信用と信頼は違うという事だけ、覚えておいてくれ」
今回は毛利さんを信じたことに対する事を言っていたのだろうけど。
これについては間違っていたとは思わないし言わせないつもりだが、そういうことを言っているのだろうな。
「・・・はい」
これには、こちらを向いた彼に視線を合わせて小さく頷いて。
それを確認した零は納得した様子で、僅かだが微笑んでみせた。
「・・・そういえば、その怪我はどうしたの?」
半ば話題を変えるように、彼の二の腕の怪我を指差しながらそう尋ねると、彼もそこへと視線を移して。