第93章 重ねて※
きっと、もう居ないだろうけど。
その為に、あれだけ何度も堕としたのだろうから。
まだ事件について話したくはないのだろうか、なんて考えながらリビングとして使っている部屋の扉を開けた時。
「れ、零・・・?」
居ないと思っていた彼は、いつもの様子でキッチンの方へと立っていて。
驚いて目を丸くしていると、私に気付いた彼はフッと優しい笑みを見せた。
「起きたのか。丁度コーヒーを入れる所だ。飲むだろ?」
「・・・うん」
小さく頷けば、彼は笑みを濃くして。
何事も無かったかのように作業を進めた。
「・・・・・・」
どこか気まずい。
そう思うのは、私だけだろうか。
どうしてそんな、何事も無かったかのように・・・。
「・・・っ」
いや、違う。
何事も無かったかのように、じゃない。
最初から、何事も無かったんだ。
・・・どうして。
どうして、そんな事を思ってしまったんだろう。
ー
コーヒーが入り、二人でソファーへと横並びに座ると、暫くは無言でそれを胃に運んだ。
聞いても、良いのだろうか。
彼はいくらでも話してやると言ったけど。
これは・・・聞いても良い空気なのだろうか。
「零・・・あの・・・っ」
かなり、恐る恐る。
自分ではかなり勇気を持って話を切り出したと思う。
パッと隣にいる彼に顔を向けながら口を開くと、その瞬間、唇には温かい感触を受けた。
「・・・っん、ン・・・」
これは、紛れもない。
キスだ。
・・・ということは、つまり。
喋らせない気だろうか?
「・・・!」
僅かな不安を抱えながら唇が離れ、彼の顔を見た時、思わず目を見開いた。
だって。
こちらを見て、笑いかけていたから。
「・・・爆発テロの可能性に気付いた時だった」
突然話を始める彼に戸惑い、目を丸くしたまま零を見つめ硬直していると、首を傾げて不思議そうな表情を返してきて。