第93章 重ねて※
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「・・・・・・」
大した考えが浮かぶ訳でも無いのに、なるべくゆっくりとシャワーを浴びた。
すぐに顔を合わせるのが気まずくて。
そうしたのは自分なのだけど。
昨日作ってしまった頬と手の甲の傷を改めて見ながら、何となくこれは零に見せてはいけない気がして。
大した傷ではなかったが、隠す為にもう一度新しい絆創膏を貼り直した。
着替えを済ませ、ゆっくりとドアを開けながら、その隙間から外の様子を伺って。
どうしてこんな事をしているのか自分でも分からない。
けど、体が勝手にそうしてしまう。
落ち着いていた心拍が徐々に上がっていく中、廊下には彼が居ないことを確認してドアを大きく開けた。
「随分とゆっくり入ったんだな」
「!!」
ドアで死角になる部分から声がしたと思うと、部屋着に着替えた彼の姿も同時に現れて。
驚いて肩を震わせている間にも、そこから引きずり出されるように、彼に腕を引かれた。
「公安の犬に待てをさせるとは、いい度胸だな?」
公安の犬・・・その動物に違和感は無いが、言葉には些か疑問が浮かんだ。
「さ、させたつもりは・・・っ」
・・・いや、させた。
それも昨日から。
待てというよりは、お預けだけれど。
「まだ、させるつもりか?」
引き寄せられた体は、彼の体に密着していて。
腰には手が周り、片手の親指は唇をなぞって。
触れたい。
触れられたい。
でも、彼の傷は。
「・・・させる」
無理はさせたくない。
それに、まだきちんと話もできていない。
それが済んでいないうちに、そういう事をしても良いのか。
最もらしい言い訳で自分を納得させようとするが、結局限界なのは違いない。
「では、その命令には歯向かうとする」
「!?」
一瞬で視点が変わったかと思うと、早々に寝室へと連れて行かれて。
ゆっくりとそこに降ろされると、体は期待しきっていて。
早く、どこでも良いから触れてほしくて。
・・・結局、自分が一番我慢できていない。