第93章 重ねて※
「・・・っ!」
その部屋に彼の手で引きずり込まれるように入ると、部屋の隅へと追いやられた。
真っ暗で、彼の顔は見えない。
けど、目の前に居て壁に手がついていることは分かる。
「いつだ」
「え?」
怒って・・・いる。
けど、これは私に対するものではない。
・・・誰に、怒っているのだろう。
「いつ割れた?」
どうしてそんな事が気になるのかと疑問に思ったが、答えない理由は無いから。
「零とコナンくんからの電話がある・・・少し前・・・」
多分、その頃。
あの時は少し頭の中がぐちゃぐちゃだった上に、色々と現実味の無い話をされたから。
それに、その結果がどうなったのか分かっていない。
今でも十二分に混乱はしているけれど。
「やはり、そうか・・・」
「?」
やはり、というのは。
彼は電球が割れた理由が分かるというのだろうか。
「・・・っ、零・・・!?」
彼の言葉に戸惑いを覚えていると、突然私を壁に追いやっていた体がこちらに倒れ、殆どの体重を私にかけてきた。
「大、丈夫・・・っ!?」
彼に殆どの力が入っていないのが分かる。
ここまで彼が疲弊し切っているのは、あのバーボンとして帰ってきた夜以来だろうか。
「・・・すまない」
あの時のように、眠ってしまってはいないようだけど。
「とりあえず、ベッドに・・・」
彼の怪我をしていない方の腕を肩に回し、すぐそこにあるベッドへとゆっくり足を進めた。
一歩が重い。
それは物理的な物が大きいけれど、精神的な何かも作用していた。
「・・・っ、しょ・・・」
なんとか彼をベッドに転がすと、短く一息吐いて。
「・・・自堕落に見えてるよ」
「返す言葉も無いな」
つい先程、そう見えるかと問われた所だったのに。
フッと軽く笑っては、腕で目元を多いながらそう言う彼に、少し心配が膨らんで。
珍しく、弱気だ。
心身共に弱っている姿というのは、こういう事なのだと目の当たりにして。