第92章 執行人
『すまないが、風見と一緒に来てくれないか』
「風見さんと・・・?」
僅かに、吐息混じりに声が聞こえてくる。
・・・呼吸が、荒れている?
『直に風見がそっちに着く・・・外で待っていてくれ』
「それは良いけど・・・」
どこに行くのか。
何故行くのか。
今、零に感じている違和感は何なのか。
疑問は沢山あったが、何一つ聞くことはできなかった。
『・・・頼んだ』
「う、うん・・・」
彼はまたしても用件だけ伝えると、電話をすぐに切った。
とりあえず、言われた通り準備を済ませ外に出ると、丁度風見さんが到着した所だった。
「如月さん、どうぞ・・・!」
「は、はい・・・っ」
・・・急いでいる?
零は急げとは一言も言っていなかったけど。
戸惑いながらも、風見さんの雰囲気を察して急いで助手席に乗り込んだ。
「ど、どうされたんですか?」
「え・・・?」
シートベルトを締めている最中、突然風見さんから僅かに慌てた様子で、そう聞かれて。
「怪我が・・・」
「あぁ・・・」
そういえば、さっき切ってしまっていた。
彼の視線が頬と手の甲の絆創膏に向いていることに気付くと、大きめの絆創膏が貼られた頬に指を触れさせながら、笑みを向けて。
「ちょっと転んだだけです」
「・・・そうですか」
違うということは、彼もきっと勘づいている。
けど、それ以上追求して来ないのは彼なりの優しさで。
風見さんのそういう所に、度々救われている。
「それより・・・何かあったんですか?」
「何も聞いてないんですか・・・?」
急ぐ車内でした風見さんへの質問は、質問で返された。
驚く風見さんに一瞬こちらも目を丸くしたが、半ば不貞腐れるように小さく息を吐くと、車のシートに体を倒した。
「・・・何も聞かせてくれなかったのは公安側ですよ」
「す、すみません・・・」
いや、風見さんは悪くない。
・・・多分。
きっと零に言われて動いていただけだ。
そして、口止めもされていたはずだ。