第92章 執行人
「・・・!」
役目を果たした為か、ドローンからの映像は何の前触れも無く一方的に途絶えた。
グリーンバックの前に立つ彼はまだ映っているが、これはこのままコナンくんのスマホへと転送され続けている。
零から指示があるまでは、こちらから映像を切らない約束だったので、触らずそのまま様子を伺い続けた。
終わったんだ。
これでやっと、毛利さんは本当に解放された。
零への色々な疑いは残ったままだが、きっと聞いても話してはくれないだろうな。
・・・でも今回はコナンくんがいるから。
後日、彼から聞ける範囲で聞こう。
画面に映る彼が誰なのか、それくらいは・・・教えてくれるだろう。
「・・・・・・」
その画面越しの彼は、まだコナンくんのスマホの先の誰かと会話を続けていた。
・・・彼はどれくらいの期間、死んだ事になっていたのだろう。
これで彼は、生きている人間として街を歩けるのだろうか。
日本にはアメリカのような証人保護プログラムは無いから。
今は別人として生きているとはいえ、本当の自分に戻ることはできるだろう。
零ならその道も、ちゃんと残しているだろうし。
そう考えていた時。
「・・・え・・・」
十数分後、画面に映る彼が・・・涙を流した。
突然のそれに思わず目を見開いたが、その瞬間、阿笠邸からの映像も切れてしまった。
その為、自分が見たものが真実だったのか、確かめる事もできなくなって。
・・・彼が流した涙の理由は、何だったのか。
犯人に対するものか、はたまた自分に対するものか、それとも・・・。
「・・・!!」
気付けば30分程度経っていたかもしれない。
呆然と、暗くなったパソコンの画面を見続けていると、スマホが着信を告げた。
「は、はい」
零だとは何となく分かっていたから。
特に画面は見ず、そのまま電話に出た。
『ひなた』
・・・なんだろう。
この妙な胸のざわめきは。
「零・・・?」
何か違和感がある。
『・・・ッ・・・』
「零?どうしたの?」
言葉を詰まらせているというよりは、何かを堪えているような。