第92章 執行人
さっきまで彼を疑い、不安に思って、涙まで流した人間が。
・・・こういう所が、私の最大に弱い部分だろう。
「・・・・・・」
既にコナンくんのスマホへ映像を転送し続けているパソコンの前に座り直すと、画面を覗き込んで。
一応、どのような画面が映っているのかはこちらでも確認はできた。
グリーンバックの前に立つ男性と、それを警視庁ヘリポートを撮っている映像を合成したもの。
・・・彼が、犯人と特別な関係の人。
単純に考えれば、恋人か何か。
零から、不具合があってはいけないからと、こちらの音声は切る事を命じられている為、声は確認できないが。
姿は長髪の優しそうな男性だ。
・・・死んだ事になっている、と言ってたけど。
その言葉に、ふと赤井さんを思い出した。
彼もまた、今はこの世に存在しない人物だから。
それは、安室透にも言えることだが。
「・・・!」
数分後、画面に映る名前も知らない彼に変化があった。
・・・話している。
きっと、犯人を説得しているんだ。
犯人が誰なのか、どういう人なのかも知らないが、画面に映る彼が大切な人になるのなら・・・犯人も、本当は優しい人なのではないのかと思えた。
・・・理由はどうあれ、やってしまった事は許されない事だけど。
「・・・・・・!」
画面の彼に注目する中、その彼が瞬間的にフッと笑みを見せた。
それは、沖矢さんのような不敵なものでも、零のような意地悪なものでもない。
純粋な、コナンくんのような喜びの笑顔。
・・・聞き出せたんだ。
それを見て、本能的にそう思った。
「・・・良かった」
椅子にもたれ掛かりながら長く息を吐くと、全身の力を抜いた。
これで、はくちょうはどうにかなるのだろう。
コナンくんも、零も居るのだから。
・・・思えば、それについての恐怖心や、焦りなどは特に大きく感じなかったように思う。
それはきっと、彼らなら必ずどうにかするはずだと、日本を守るのだと、確信していたからだろうか。