第92章 執行人
「何・・・?」
まさか、そのコードを探り出せ、なんて言うんじゃ。
流石にそこまでは私もできないが。
『犯人から変更したコードを聞き出す。その為に、死んだ人間を蘇らせてほしい』
・・・そんなの、コードを探り出すことより不可能だ。
「な、何言っ・・・」
『拘置所で取り調べをした後、死んだ事になった人間がいる。その人物と犯人は特別な関係だ。その人物の映像を、コナンくんのスマホに転送してほしい』
・・・そういう事か。
あまりにも簡潔過ぎる説明だが、それ故に冷静さを保っていられた。
その後も、彼から簡単に何をすべきか説明をされ、電話を繋いだまま準備を始めた。
「映像を繋ぐだけで良いの・・・?」
『ああ、構わない』
警視庁上空を飛ぶ博士が作ったドローンから撮った映像と、博士宅にいるその重要人物を合成した映像を、コナンくんのスマホへ転送する。
私にとっては、たったそれだけの事。
博士が関わっているなら、哀ちゃんや阿笠博士でもできそうな事だけど。
何故、私がする事になったのだろう。
『一度電話は切る。また連絡する』
「・・・分かった」
私ができることは、本当にこれで終わり・・・のはずだ。
わざわざ私に声が掛かった事は疑問だったが、例えこれが彼による利用でも構わない。
今は、コナンくんの迷惑にならないのであれば。
『ひなた』
「?」
電話が切られるのを待っていると、最後に改まったように名前を呼ばれて。
もう強い風の音は無い。
ただ、靴音は聞こえてくる。
そして遠くの方から人々の声。
そんな中、彼の声だけに耳を澄ましていると。
『僕は、君を愛している』
突然、一言そう言って。
『映像、頼んだぞ』
最後にそれだけ告げて、電話は切れた。
「・・・な、に・・・」
何だったのだろう。
これもまた、何かの作戦なのか。
いや、普通に言葉を受け取れば良いじゃないか。
そう思う反面、どこか不安になって、戸惑って。
「・・・・・・っ」
でも、結局。
顔が熱くなる感覚がして。
鼓動が早くなっていくのを感じた。