第92章 執行人
「案外利用してるのは、私の方かもしれないよ?」
それもまた、私達のあり方ではないだろうか。
元々普通の関係ではないのだから。
それは彼だから・・・零だから、良いと思える事だけど。
「・・・そっか」
如月さんが良いならいいけど、と付け足す彼へ、誤魔化すようにヘラっと笑ってみせた。
「あ、それと・・・良い情報が一つ」
帰ろうとした彼は突然振り返ると、少し明るくなった表情を向けてきて。
彼の混み上がって来るような嬉しさを肌で感じとった。
「毛利のおじさんの、不起訴が決まった」
「本当・・・!?」
彼の喜びをようやく理解すると、こちらまで表情が和らいでしまった。
「良かった・・・っ」
とりあえず、今はその感情でいっぱいだ。
力になれたのかどうかは分からないが、これは悪い方に転がらなくて、本当に良かった。
これで、私にできる事はもう何も無い。
元々、毛利さんの無実を晴らすために動いていたのだから。
あの爆発が事故だったのか事件だったのか。
今度こそ、真実が明るみになれば良いけれど。
「じゃあ僕戻るね。しなきゃいけない事が残ってるから」
・・・あぁ、ここに居るじゃないか。
真実を突き止めてくれる、小さな探偵さんが。
「・・・頼んだよ、江戸川コナンくん」
きっと、これから真実を明らかにしてくるのだろう。
私以上に、彼は必死に動いていたのだから。
それは恐らく、蘭さんの為でもあるんだろうけど。
「任せて」
一瞬目を丸くした彼だったが、すぐにニッと自信満々な笑みを向けて、力強く頷いた。
その後、来た時と同じ様にスケボーで去っていくと、姿が見えなくなるまでその背中を目で追った。
オレンジ色だった街も、段々と日が落ちて暗くなってきて。
事務所に戻り電気を付けると、ソファーへと腰を下ろした。
そこに置きっぱなしになっていたブランケットに触れると、ふと今朝の事を思い出して。
昨日零が帰って来た時に掛けてくれたこれのお礼を、まだ言えていなかった。
それ所か、軽くではあるが突き飛ばしてしまった。
謝らなくちゃいけないのは分かってる。
・・・けど。