第92章 執行人
「・・・ッ!」
そこから取り出されたのは、コナンくんが仕掛けた盗聴器。
・・・彼は、気づいていたんだ。
「これでよく公安が務まるな」
そう言い放った彼の声は低く、今まで以上に強く重い圧を感じた。
苦しささえ覚える空気に、気まずさ所ではない焦りを覚えて。
「す、すみません・・・」
風見さんから謝罪の言葉が出るや否や、取り出された盗聴器は零の指先で潰された。
この状況が良いものではないことは、誰が見ても一目瞭然で。
「・・・!」
どうすれば良いのか分からない。
何もかもに戸惑っていると、風見さんの腕を離した零が、今度は強い圧を掛けたままこちらの方へと近寄ってきて。
「っ!」
風見さんの次は私の腕を掴んで、零の方へと強く引き上げられた。
「あまり彼女を連れ回さないでくれるかな」
零は冷たくコナンくんに言い放つと、私の腕を掴む手の力を強めて。
「僕の大切な人なんだ」
その言葉には、思わず目を見開いた。
彼が最後にコナンくんへ言葉を残した直後、すぐに背を向けその場を去った。
勿論、私の腕を掴んだまま。
「待って!」
コナンくんの声を背中で受け止めたが、腕を引かれて歩いているせいで、振り返る事はできなかった。
風見さんの事も気になったが、今は自分の心配をした方が賢明かもしれない。
「・・・っ」
何処に連れて行かれるのだろう。
不安に煽られながら昨日と同じように腕を引かれ、足早に連れてこられたのは、少し離れた場所にあった建物の影で。
再び昨日と同じように、建物の壁へと体を追いやられると、ドッと冷や汗が吹き出した。
木や柵のおかげで周りから確認はされにくいが、誰かに気付かれたら。
「れ・・・っ」
そんな私の心配を他所に、彼の腕が壁について。
ほぼ私と零の間に、距離というものは無くなった。
「まさか、あの少年がひなたを取り込もうとするとはな」
・・・取り込む、か。
彼にとってはそうなるのか。
私としては、自ら協力しているつもりだったのだけど。