第92章 執行人
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「・・・・・・?」
いつの間に眠っていたのだろう。
気がつけば、椅子に座って机に倒れ込むように眠っていた。
橘鏡子弁護士について調べて・・・メールを送って・・・。
パソコンの電源を落とした事だけは覚えている。
・・・それから。
どうしたっけ。
「・・・!」
眠る前のことを思い出しながら立ち上がろうとした時、違和感に気付いた。
調べている最中も、調べた後も、ここから出歩いた覚えはない。
ましてや、この肩に掛かっているブランケットにも覚えはない。
「・・・零」
彼しかいない、こんな事をするのも、できるのも。
・・・帰ってきてたんだ。
その事実に、少しだけ胸が押し潰される思いになった。
こんな時にも彼は優しさを見せる。
私は彼を、今は味方ではないと判断してしまったのに。
・・・やはり、私が間違っているのだろうか。
「!」
一人呆然と何度目かの思考を繰り広げていると、今日も例の小さな探偵さんから着信が入って。
その電話内で、再び彼と会う約束をした。
すぐに出掛ける準備を整えると、忙しなく事務所を出て。
呼び出されたのは、とある公園。
そこで落ち合い、公園内にある椅子へと腰掛けると、傍に立つ彼は何も言わないまま、指先を数回曲げて手招きした。
「?」
首を傾げながら体を近付けると、彼は耳の辺りのメガネのフレームを指差して。
「聞いて」
その言葉に、益々意味は分からなくなった。
どういう事かと思いながらも、彼の耳に掛かるメガネのフレームに耳を近付けた時、微かにそこから何かが聞こえた。
『我々公安部の捜査の結果、爆破現場の不正アクセスに「Nor」が使われていた事がわかりました』
『ノーア?』
・・・これは。
「コナンく・・・っ」
「しっ・・・」
まさか。
いや、そのまさかだ。
これは、風見さんと目暮警部の声。
それはどこか報告的な言い方で、声の響き方からして二人で会話をするような部屋ではない。
ということは、つまり。
今、私達が耳にしているのは、本物の捜査会議。
きっと、風見さんに仕掛けた盗聴器から聞いているんだ。