第91章 ゼロの
「残念だが、公安は違法捜査がお得意なんだ」
胸ぐらを掴む私の手を外しながら、彼は冷たく言い放った。
「・・・毛利さんは何の為に、送検されたの」
せめてその理由だけでも。
・・・如何なる理由でも、納得なんてできるはずないだろうけど。
「関係ないと言ったはずだ」
「関係なくないって言った・・・っ!」
こんな事・・・言うはずじゃなかったのに。
今までも、これからも。
どこから彼と私は・・・間違っている?
それとも、どちらも正しいの?
・・・そんなはずない。
「零を信じてるから、教えてほしいの・・・」
考えと言葉が上手く通じ合わない。
ただでさえ頭の中では、彼を信じたい気持ちと疑う気持ちがぐちゃぐちゃに入り交じっているのに。
「僕を信じているなら、何もするな。これは公安の仕事だ。事務所に居ろ」
その言葉に、ようやく悟った。
・・・ああ、今回の彼は。
「・・・その命令には、従えない」
味方ではない。
突き放すように彼の体を押して、距離を取って。
そのまま、逃げるように立ち去った。
警視庁内なのは確かだけど、どっちに向かって良いのか分からない。
私みたいな部外者がウロウロしていて良い場所でもない。
でもここがどこなのか、出口がどこなのかも分からない。
とにかくここから出ないと。
「大丈夫ですか?」
「!」
焦ってキョロキョロ辺りを見回していると、背後から聞きなれた声で問いかけられて。
「・・・如月さん?」
「風見さん・・・」
まさか会ってしまうとは。
コナンくんの言った通り、別々で行動したのは功を奏したかもしれない。
帽子を被っていたせいか、振り向くまで彼は私だと気付かなかったようで。
目が合えば、何故ここに居るのかと目で聞かれた。
「・・・すみません、出口を教えて頂けませんか」
「あ・・・はい、こちらです」
その無言の問いには答えず、ただ聞きたいことだけを伝えると、一瞬だけ戸惑いは見せたものの、彼も何かを瞬時に察して私を出口へと案内し始めた。