第91章 ゼロの
「・・・すみませんでした」
「え?」
歩きながら風見さんに一言謝罪すると、彼は何の事かと首を傾げた。
それを横目で見ながら、自分の頬を指さして。
引っぱたいてしまったことを黙ったまま示した。
「あぁ・・・」
納得の言葉を短く口にすると共に、風見さんも私が叩いた頬へ、あの時を思い出すように触れた。
「中々のものでした」
「・・・すみません」
もう一度謝りながらも、零を味方ではないと判断した今、風見さんも同じになるのかと改めて考えて。
「ついでに一つだけ、聞いてもいいですか」
「なんでしょうか・・・?」
風見さんが何か情報を漏らしてくれるとは思わなかったけど。
「毛利さんの送検に繋がった証拠は、本物なんですか?」
「・・・・・・」
現場の指紋も、パソコンの中にあったという見取り図やサミットの予定表も。
零に言われて、準備したものではないのか。
「事件内容については答えられません」
「本当に事件なんですか?」
事故・・・と断定する訳ではないが、それが毛利さんによる事件だとは、やはり思えない。
風見さんの雰囲気から察するに、何かを隠している事は間違いない。
・・・という事は。
「・・・あちらが、出口です」
それ以上答えるつもりは無いと言うように、少し出入口からは離れているが、そこを手の平を上に向けながら示された。
元々、質問も一つだけと言ってしまっている。
「・・・ありがとうございました」
頭を下げ、足早に警視庁を後にすると、ようやくまともに呼吸をしたような気になれた。
場の雰囲気というのもあるが、それ以上に・・・。
「!」
思い返せばまた呼吸がしにくくなりそうな中、ポケットの中で震えるスマホに気が付いて。
急いで手に取ると、目立たない場所へと移動し、掛かってきた電話に出た。
『如月さん、大丈夫?』
「ご、ごめん・・・色々あって・・・」
最近は電話が掛かればコナンくんからだと、思うようになってしまった。
とりあえず、零と接触したことは黙っておこう。
大した情報は得られていない上、これからも行動はコナンくんと共にしていくことになりそうだから。