第91章 ゼロの
人通りのない廊下の端に連れてこられると、私の手を引いていた人物は、荒々しく手を投げるようにして離した。
「っ・・・!」
そして気付けば背中は壁についていて。
腕を掴んでいた手は、今度は私の口を塞いでいた。
「・・・事務所に居ろと言ったはずだ」
・・・ついさっき目にした姿は、ワイシャツだったから。
自然とこの人は違うと思っていた。
でも声で、瞬時に脳は誰なのかを判断した。
「何故、ここに居る」
そう問いながら彼は・・・降谷零は、被っていたフードを脱ぎ、塞いだばかりの手をゆっくりと私の口からズラした。
「れ・・・っ」
「どうしてここに居るのか聞いている」
答え以外の言葉は許さない。
そんな圧を掛けられながら、問いは繰り返された。
「・・・・・・ッ」
どうせ、理由は知っているくせに。
何を聞いても教えてくれないくせに。
色々言いたいことはあったが、今はそんな場合じゃないとグッと飲み込んで。
「答えられないのか」
それ所か、彼の目だって見ることができない。
その行動は、全て彼の想像通りだと言っているも同然だった。
「・・・どうして事務所に居られないんだ」
呆れているようにも聞こえた。
それにどこか胸は傷んだが、私も引く訳にはいかない。
今は限りなくピンチではあるが、彼と話すチャンスでもある。
「あの爆発、事故じゃなくて事件って本当?毛利さんが犯人なんて、嘘だよね・・・?」
聞いている間も、目は見ることができなかった。
逃げるつもりは無いが、壁と彼に挟まれ逃げ場を失った体は、妙に緊張感を持っていて。
「ひなたは関係ないことだ」
「コナンくんや毛利さんが困ってるなら、関係ないことはない・・・!」
ようやく目を見られた時には、咄嗟に彼の胸ぐらを掴む両手にグッと力を込めていて。
「零が間違ってることしてるなら、私は零の指示には従わない・・・っ」
こうして刃向かったことが今まであっただろうか。
いつも私を守ってくれている立場の彼が、間違っていることをしているという事実が、ただ怖くて。
違う。
その一言だけが欲しかった。