第91章 ゼロの
「とりあえず、そこに入って頂けますか」
そう言って彼が親指で指さしたのは、先程出てきたばかりの阿笠邸・・・の、隣の工藤邸。
「・・・すみません、寝ていないので今すぐ帰りたいんです」
「寝床の準備はできていますよ」
ああ言えばこう言う所も相変わらずで。
小さくため息を吐きながらスマホをカバンにしまうと、彼に向き直った。
「透さんに、私へ近付くなと言われたのを忘れたんですか?」
「残念ながら、言われたのは沖矢昴ですので」
ということは、私と話をしたいのは赤井秀一。
その話に心当たりが無いことはないが。
正直、今はそんなことをしている場合でも、その話を赤井さんとするのも都合が悪い。
「すみませんが、今は立て込んでいるので」
「その件は、この国が誇る名探偵達が解決してくれますよ」
・・・話はこの爆発の件じゃないのか。
いや、だったらそれこそどうでも良い。
「とりあえず・・・今、は・・・っ」
帰らなくては。
零に電話をした上、変に電話を切ってしまった。
帰って来ないとも限らないから。
そう頭では思っていたのに。
「・・・その様子では、すぐに帰ることは無理そうですね」
気付けば、沖矢さんの腕で体を支えていた。
眠気というよりは疲労。
それは体力的にも精神的にも。
いつの間にか体はダメージだらけで、立っていることがやっとだったらしい。
それもできなくなった体は小刻みに震えだし、沖矢さんの支え無しでは立てなくなってしまっていた。
「貴女はいつもこうですね」
「・・・そういう呪いにでも掛かっているのかもしれません」
沖矢さんの言う通り、理由は色々あれど、彼の腕で支えられていることが度々ある。
本当にそういう呪いに掛かっているのではないかと思う程に。
「とりあえず、運ばせて頂きますよ」
「ちょっと・・・っ!ほ、本当にやめてください・・・っ」
慣れた手つきで抱えられると、有無を言わさず工藤邸に向かわれて。
中に入ると、いつもの部屋、いつものソファーに座らされ、数分後にはいつもの紅茶が出てきた。