第91章 ゼロの
「・・・・・・」
彼に言われてしまった以上、やはり事務所にいるしかないと諦め、階段を降りながらバッグに手を突っ込んで。
今日は阿笠邸に泊まると、コナンくんに言ってしまっていたから。
それを断ろうとバッグの中からスマホを取り出した瞬間、そのスマホから着信を知らせるバイブ音が静かに響いた。
画面を確認すれば、それは丁度、今から電話を掛けようかと思っていた、コナンくんからのものだった。
「もしもし・・・?」
『如月さん?今どこ?』
階段を降りきり、大通りの方へと向かいながら電話に出ると、張り詰めながらも落ち着いた口調で、彼はそう聞いてきて。
「えっと・・・ポアロの近く・・・」
もうここは事務所ではない。
それに、零と会ったことを伝えて良いのか、いつもの癖の様なもので、ほんの一瞬だけ迷ってしまったから。
とりあえず嘘ではない断片的な事実を伝えると、彼は雰囲気を変えないまま、言葉を続けた。
『丁度良かった。すぐに探偵事務所まで来てくれない?』
探偵事務所・・・その言葉に一瞬ドキッとしてしまったが、彼が言っているのは多分・・・。
「毛利さんの・・・?」
ポアロの二階にある、コナンくんの今の帰る場所。
『うん。ちょっと・・・厄介な事になってて・・・』
「?」
厄介な事とは。
その言葉に疑問しか浮かんで来なかったが、彼はそれ以上を伝えようとはしてくれなくて。
数時間前のニュースの時のような、見れば分かる、見た方が早い、というものだろうか。
そう思い、彼に了解の返事をすると、走ってポアロへと向かった。
ーーー
「は・・・ッ、はぁ・・・ッ」
久しぶりに走るとキツい。
肺が苦しく、あっという間に息は上がってしまって。
運動不足をひしひしと感じる中、ようやく毛利探偵事務所の前まで着いた。
いつもと変わらないその場所でただ一つ気になったのは、スーツを着た人達が、探偵事務所からダンボールを大量に運び出していたこと。
まるで、警察官のような人達が。
これが・・・コナンくんが私を呼び出した理由なのだろうか。