第91章 ゼロの
「・・・・・・っ」
ここがダメなら、他だ。
何としてでも彼を見つけてみせる。
とりあえず次は、普段使っていない方のセーフハウスへと向かおうと、扉を開いて階段を駆け下り、タクシーを捕まえようと大通りへと向かいかけた時。
「・・・!」
急いでいて、その違和感に気が付かなかったけれど。
今一瞬、冷静になって気付いた。
それを確かめる為に慌てて振り返り、来た道を急いで戻って。
「・・・っ・・・」
一階の事務所は鍵が閉められていた。
でも二階は鍵が開いていた。
この事務所は今月いっぱいまで、という話を耳にしている。
なら鍵は・・・まだ彼が持っている可能性がある。
ということは、つまり。
「れ・・・っ」
再び階段を駆け上がり、扉を開くと。
「ひなた・・・」
目の前には、怪我でボロボロになった彼の姿があった。
その姿を確認した瞬間、何より先に、彼が生きていたという事実に押し潰されそうな感情を覚えた。
「良かった・・・っ」
その体に縋り付くように身を寄せると、また情けなく泣いてしまって。
泣いてる場合じゃないのに。
それでも勝手に溢れてくるそれを、止める方法が分からなくて。
「ひなた」
縋り付いていた体を、肩を持って引き剥がされると、その声で視線を彼の顔へと上げられた。
深いものではないが、痛々しい。
その傷に顔を歪めていると、彼は冷たくも強い口調で言い放った。
「どうしてここにいる。今すぐ事務所に帰っていろ」
それは確実な命令で。
「でも・・・怪我が・・・っ」
頬のそれに手を伸ばしかけるが、その手は彼の手に掴まれ阻止された。
「大したことはない」
顔を背けられた上に掴まれていた手も離されると、背中を向けられ物理的に距離も取られた。
・・・こんなに冷たい態度、取られたことがなくて。
悲しいというよりも、動揺が酷かった。
「零・・・」
それでも、彼の怪我は放っておくことはできない。
そう思い、背中を向ける彼の腕を掴んで体をこちらに向き直させた。