第13章 愛して※
「・・・すごく、嬉しいです」
自然と穏やかな気持ちになって。こういうことをする誰かなんていなかったから。気付いたら自然と笑顔になっていた。
「安心しました。ひなたさんがこういうの苦手だったらどうしようかと思いながら購入したので」
その姿を想像すると、少しでも私を考えてくれた時間があったことに嬉しくなって。
その後、透さんが入れてくれたコーヒーを持って二人でソファーに腰掛けた。さっきまでも距離は近かったのに、部屋の中だと更にその距離は近く感じて。
他愛も無い会話を暫く続け、お風呂を進められたので、お言葉に甘えて先に入らせてもらった。少しだけ彼の香りがするタオルに気付いた時は、自分自身への恥ずかしさが込み上げた。
お風呂から上がると、あの時と同じように夕飯が用意されていて。唯一違うのは、揃えられた食器類。全て買い直しさせたことに申し訳なさも感じたが、それ以上に嬉しさがあって。
食事を済ませると透さんもお風呂に入って。上がるとまたソファーに座って食後のコーヒーを飲む。
その時に改めて気になることがあって。
「あの・・・透さんってどうして私に敬語なんですか?」
出会った当初は勿論敬語でおかしくはないけれど。今は透さんの方が形としては上司になるのに、とずっと疑問だった。
「敬語が癖、というのはありますが・・・ひなたさんが嫌ならやめますよ」
「い、嫌ではありませんけど・・・、単純にどうしてかな、と・・・」
透さんに変な気を使わせたのでは、と不安になりながら、両手を左右に降った。その姿を見てまた笑われたようで。
「・・・本当はひなたさんとの距離感を保つのに、というのが一番の理由かもしれません」
「私との・・・?」
その言葉の真意が分からなくて。
ふと見てしまった、彼の悲しそうなとも苦しそうなとも言える横顔から目が離せなくなった。
「これ以上、貴女との距離を縮めてしまうと何をしてしまうか分かりませんから」
そう言うと、透さんは背もたれに寄りかかり、体を全てソファーに預けた。その表情は何とも言えない憂いを帯びた顔で。それをただただ目で追った。
それって・・・もしかして・・・
単純で鈍感な私だけれど、その言葉だけで意味を理解するには十分過ぎた。少なからず、透さんも私を意識してくれているのだろうかと少し自惚れてみて。