第91章 ゼロの
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あれから数時間後。
博士の手を借りて何とか地下へと下り、博士の作業部屋で一人の時間を貰った。
いくら時間が経っても不安は減るどころか増えていく一方だったが、今は高木刑事からの連絡を待つ他無かった。
「!」
どこを見つめるでもなく、ただボーッと人形のように壁へ寄りかかっていると、数回のノック音が聞こえてきて。
返事は無いものだと思ったのか、こちらが応えるより先に、その扉は開かれた。
「どう?少しは落ち着いた?」
目と目が合うと、マグカップを片手にしたコナンくんが、そう声を掛けてくれて。
「・・・少し、ね」
本当は少しも落ち着いてはいないけれど。
見えない感情に押し潰されそうなまま、彼が差し出したマグカップを受け取ると、そこから温かい温もりを感じて。
「如月さん、今日は博士の家に泊まっていったら?」
マグカップの中身をただ見つめていると、コナンくんは突然そう言い出した。
「今日は僕も泊まるから。そうすれば、高木刑事からの連絡もすぐに伝えられるし」
・・・いつもなら、断っているところだけど。
「お言葉に・・・甘えようかな・・・」
今日は、一人でいるのが怖い。
組織に入ると決めた以上、こんな事で動揺していてはいけないのに。
情けない。
「・・・そういえば、沖矢さんは?」
「今は別の件で忙しいみたい。ジンが誰かを引き抜くっていう情報を掴んだから、それが誰なのかを特定してるらしいよ」
・・・それは多分私だと、言っても良いのだろうか。
いや、まだ入った訳では無いし、今はそんな話をしている場合でも・・・。
「!」
とりあえず、沖矢さんがいないのならどっちみち都合が良いと思っていた時、コナンくんがポケットの中の何かを気にして。
そこからバイブ音を響かせたスマホが取り出されると、画面に指を触れさせては耳に当てた。
高木刑事からだというのは、雰囲気で分かった。
ただこの会話が終わった瞬間、私がどうなってしまうのか。
それは自分の事なのに。
微塵も想像がつかなかった。