第91章 ゼロの
小さなため息を一つ吐くと、持っていたスマホを机に置き、再び手を動かし始めて。
新しい事務所は前よりも広さは増したが、事務所らしさは減ったように思う。
前回の小さな建物と違い、ここがマンションの一室だから、というのがその要因だろう。
確かにセキュリティーは、以前よりきちんとしている。
けど、どこか落ち着かない。
ここも所謂、セーフハウスになるのだろうか。
そんなことを考えながら、少なくなってきたダンボールを、一つ机の上に積み上げて。
そういえば、いつから組織に潜ることになるのだろう。
ずっと監禁されるような事には、ならないと思うけど。
・・・この脆い精神が、持つだろうか。
不安ばかりが膨れていく中、事務所の片付けは予定よりも随分と早く終わろうとしていた。
「!」
資料をダンボールから棚へと移し替えている最中、机の上に置いたスマホが震えだして。
メール・・・では、ない。
それに気付き慌てて手に取ると、画面に表示された名前を見て、相手には悪いが少しだけ肩を落としてしまった。
「もしもし」
『もしもし、如月さん!?』
零だと一瞬思ってしまったが、電話の主は。
「どうしたの、コナンくん?」
随分と慌てた様子の彼だった。
『ニュースの映像見た・・・っ!?』
「ニュース?」
唐突にそんな事を言う彼に首を傾げては、改めて事務所の中を見回して。
「ごめん、今テレビなくて・・・」
何か大きな事件でも起きたのだろうか。
思えばここ数日、まともにニュースをチェックしていなかったように思う。
何かあったの?と彼に尋ねると、彼は緊迫感を保ったまま、声を張り上げた。
『じゃあ今すぐ博士の家に来て!』
「え・・・っ?」
博士・・・阿笠邸に・・・?
どうしてだろうと疑問に思う間も無く、コナンくんは一方的にそれだけ告げると電話を切ってしまった。
あの様子は只事では無い。
戸惑いはしたものの、彼の指示通り阿笠邸に向かわなくてはいけないと脳は判断して。
気付けば最低限の荷物を小さなバッグに詰め、事務所を後にしていた。