第90章 二人の
「絶対に駄目だ」
私の両肩を掴み、真っ直ぐな目で見つめてくる。
でも、それは私も同じで。
「ひなたが潜入したところで、こちらにメリットが無い」
「・・・足でまといになるから?」
それは否めないけど。
「そうだ」
何を言っても無駄だと思ったのか、彼は言葉を選ばず、単刀直入にそう返した。
「公安にメリットがなくても、他はそうじゃないかもしれない」
そう言った瞬間、彼の目付きが変わった。
何を言いたいのか、彼にも分かったからだろう。
「FBIは、許可するかもしれない」
正直、ジョディさんなら反対すると思った。
けど、赤井さんなら。
彼なら、行けと言うかもしれない。
「僕を裏切るのか」
「そうじゃないよ。だから公安側の人間として私を組織に入れてほしいの。下でしか分からないことも、あると思うから」
母も、兄も、組織が原因でいなくなった。
それがまだ存在し続けているのに、私は何もできないままなんて嫌だ。
向こうが手招く今、入ることは普通より簡単なこと。
それをチャンスとしない方が勿体無い。
「・・・だからひなたには話したくなかったんだ」
肩を掴む彼の手に、力が入って。
震えるような彼の声に、勿論申し訳無さも感じている。
こんな時にFBIの名前を出したのは卑怯だと思う。
彼の気持ちを踏み躙っていることも分かっている。
でも・・・でも・・・。
「お願い」
一言そう呟けば、逸れていた彼の視線は再び私へと戻ってきた。
鋭さを失った、弱々しい目付きで。
「・・・バーボンの愛人として置いているのも、本当は反対なんだ」
「知ってる」
とにかく組織に関わることを、彼は嫌う。
それはまあ、当たり前のことで。
「もう・・・失いたくないんだ・・・」
「でも、何もしなきゃ変わらない。何なら、消されるかも」
肩を掴んでいた手は、滑り落ちるように落ちていって。
お互い、言いたい事も、気持ちも、分かっている。
だからこそ、納得できなくて。
どうしたら良いかなんて、明確過ぎるくらいなのに。