第90章 二人の
「素人から引き抜かれ、何も知らず奴らの下で動いている者は少なくない。怪しい金だと分かっている上で、受け取る奴もいるがな」
何も知らないなら、まだその方が良かったかもしれない。
それにあの組織は、どこまでの規模で動いているのだろう。
そして、その目的とは一体。
「どうして・・・」
これくらいの技術なら、探せば更に上の技術を持った人くらいいるだろうに。
「組織のことを知った上で、一度ひなたを裏切ったバーボンの傍に、その愛人として居るからだろう」
・・・そうか。
単純に考えれば分かる話だった。
組織のことを知った上でその傍にいる一般人なんて、本来はおかしな話だ。
ノックの疑いが晴れ切っていない彼の傍にいる人間が普通なはずがない。
逆に言えば、組織のことを知った上で働かせられる、都合の良い存在ということでもあるが。
「ひなたへのあらゆる疑いは濃くなっている。だからこそ、内部に取り込み、いつでも消せる準備をしている」
それは、そうだろうな。
私だって組織側の人間なら、私のような人間へは疑いの眼差ししか向けない。
「だからひなたには暫く新しい事務所の方で・・・」
「それ、本当に入っちゃ・・・駄目なのかな」
これは危険な賭けだ。
でも、ある意味チャンスじゃないかとも思った。
「駄目に決まっているだろ」
存外、冷静な自分に自分で驚いている。
寧ろ彼の方が、それを失っているのではないだろうか。
「何を言ってるか、分かってるのか」
「分かってなければ言わないよ」
彼の気持ちは勿論分かるが、このまま逃げていても悪い状況が続くだけだ。
私が組織内部に入れば、少しは変わるはずだ。
とても良い方向か、とても悪い方向か、どちらかにだけど。
「危険過ぎる、許可できない」
「でももう片足は突っ込んでる」
バーボンの女である以上、もう組織の人間のようなものだ。
「本格的に、奴らに手を貸すことになるんだぞ」
「それも分かってる」
今後、自分の作ったものが悪用されるかもしれない。
・・・でも、そうさせない方法が一つだけある。
零には、絶対言えない方法だけど。