第90章 二人の
「新しい場所は今よりもセキュリティはしっかりしている。移動の大きな理由としてはそういうことだ」
・・・本当にそれだけなら良いけど。
「どうして最初に話してくれなかったの・・・?」
「ひなたが聞かなかったからな」
それは、そうだけど。
・・・そう、だけど。
「じゃあ、昨日様子がおかしかったのは?」
「・・・そんなにおかしかったか?」
力強く何度か頷くと、彼は僅かに困った表情で明後日の方向を向いて。
暫く考える素振りを見せた後、チラリとこちらへ視線を向けたかと思うと、彼は徐ろに口を開いた。
「本当にただの恋煩いだと言えば、納得するか?」
・・・納得、できない。
一瞬戸惑いはしたが、彼の問いには小さく首を降って。
「だろうな」
彼がそう返事をするということは、やはり理由は別にあるということか。
それとも、本当にそうなのに、私を納得させる為の言葉が見つからないのだろうか。
できれば、後者であればどんなに良かったか。
「・・・ジンが、ひなたを組織の人間として引きずり込もうとしている」
「!」
彼の言葉に、驚きはした。
でも、想像以上にそれは落ち着いたもので。
そういう日が来ることもおかしくはないと、以前から思っていたからだろうか。
実際に来ると、あまりにも現実味の無い話で、話の深刻さに追い付けないせいもあると思うが。
「勿論、そうはさせないつもりだ」
そう話す彼の目付きは鋭く、説得力しか感じさせないものだった。
でも、一つ疑問なのは。
「どうして・・・今なの?」
毎回、それは疑問に思うことだった。
そのタイミングはいくらでもあったはず。
逆に、消すタイミングもいくらでもあった。
でも敢えて私を殺さず、内部に取り込もうとする理由は何なのか。
「この技術を知ったからだろうな」
そう言って彼がポケットから取り出したのは、数時間前に私が床に落とした、カメラの仕込まれたペンダント型の通信機だった。
・・・やはり、零はこれが私の作ったものだと分かっていたのか。
まあ、彼にならバレるか。