第90章 二人の
ゆっくりと体を起こし、ベッドから体を離して。
一度シャワーを浴びなければ、頭も体も起きない。
そう思い、お風呂場のドアノブに手を掛けた時、こちらが開くと同時に、向こう側からも扉は開かれた。
「・・・!!」
「ひなた・・・」
僅かに崩れたバランスを何とか保ちつつ、ドアを向こう側から開いた人物に目を向けて。
それは最初から分かってはいたけれど。
「零・・・」
居ないと思っていた彼は、少し驚いた様子で私を見ていて。
「すまない、起こしては悪いと思って」
様子からして、彼は一足先にシャワーを浴びたようだった。
「それは・・・良いんだけど・・・」
それより、最近はこんな時間にここに居る方が珍しくて。
仕事は大丈夫なのかと、目で訴えた。
「今日は夜に少し出かけるが、昼間は空いている」
そう言って無造作に私の頭を撫でると、隣を通ってキッチンへと向かい、コップに水を注ぐとそれを数口分胃に流し込んだ。
「・・・そっか。じゃあ、お昼は一緒に食べられるね」
「ああ。僕が作ろう、何が食べたい?」
・・・昨日の様子とは違い、いつもの零だ。
でもまだどこか、違和感に近いものは感じる。
「じゃあ、零のナポリタン」
「分かった」
そう返事をして微笑む彼の目の下には、薄らとクマのようなものが見える。
・・・珍しい。
普段から睡眠時間が短い彼だが、こういうものを作ることはあまりない。
「先に、シャワー浴びてくるね」
一声そう掛けると、彼は優しい笑顔で応えた。
・・・なんだろう。
さっきからチクチク胸の辺りが痛いのは。
彼の笑顔を見ると、その痛みは強くなるようだった。
ーーー
「はぁー・・・」
お昼を食べ終わると、満腹からくる眠気に身を任せて体を畳の床へと倒した。
「食べてすぐ横になると、消化に悪いぞ」
「少しだけ・・・」
眠ることはしないから、と言い訳をしては瞼を下ろして。
普段こういうことは絶対にしない。
けど、今日は少しだけ。
ほんの少しだけ、自分に悪い事をしてみたくなった。