第90章 二人の
嫉妬深いことは知っているが、沖矢さんや赤井さんと何かあったあとはそれが特別強いと感じる。
・・・嫌という訳ではないが、困惑が強いというのもまた事実で。
「・・・!」
そんな戸惑いを感じている時、彼の服を掴む手に、僅かに伝わってくるものへ神経を研ぎ澄ませた。
それはいつもはゆったりとしていて、彼の早いものは感じたことがないもの。
「・・・っ、きゃ・・・!?」
気の所為では無いことを確かめる為に顔を上げ、彼の目を見ようとした瞬間、突然体はフワリと地面から離れ、彼に担がれるようにして運ばれた。
運ばれたのはいつも通りベッドの上。
そこに転ばされ、彼に見下ろされるまでは本当にいつも通りだった。
ただ一つ、いつもと違ったのは。
「・・・ッ・・・」
彼の表情。
「動揺くらいすると・・・言っただろう」
聞くより前に、彼はそう返答して。
その頬は赤く染まり、羞恥にも染め上げられた表情をしていた。
もう、彼の胸元に手は触れていないけれど。
触れていなくても、聞こえてくるようで。
彼の感じたことのない、強く、早い、心臓の音を。
「そん、な・・・顔、しないで・・・」
よく分からないが、何故かこっちまで恥ずかしくなってしまう。
思わず自分の顔を腕で隠すと、その熱が腕に伝わってきて。
自分まで彼と同じ色に染まっているのだと気付けば、更にその熱は増していくようだった。
「どうして零が動揺するの・・・」
「ひなたがそんな顔するからだろ」
そんな顔、とは。
・・・いや、零を見ていれば分かるような気もする。
終始、滅茶苦茶な彼の言葉にこちらの方が動揺している、と心の中で言い返して。
「・・・っ!」
その最中、顔を覆っていた腕を軽く退けられると、全身に彼の体重がかかって。
覆い被さるように強く抱き締められると、彼の強い心音を全身で感じた。
それを体で聞いていれば、自分の心臓も同じようにドクドクと脈打ち始めて。