第90章 二人の
「・・・れ、い・・・?」
怒っている様子はないが、明らかに雰囲気はさっきと違う。
ここへ来る前もそうだが、いつだってそれは許可無くしてきた。
勿論、許可を取らなくても良いとも思っている。
「どした、の・・・」
何か、私の言葉を待っているんだろうか。
だとしたら、何を。
どんな言葉を。
待っているの。
「さあ、な」
言い終わるや否や、彼の希望通り唇を塞がれた。
こちらとしては、ようやく、という思いもあったが、それを僅かに後悔してしまうくらいに、された口付けは激しくて。
「っンぅ、ッふ・・・んん・・・っ」
体を壁に押し付けられ、彼の舌が深く深く潜り込んでくる。
気付けば彼の服をキツく握り、時折体を跳ねさせて。
手に握られていたペンダントが床に落ちていたことも気付かない。
思えば手から離れていた、と思うだけ。
「んんっ、・・・ぅ、ン・・・ッ」
顔の角度が変われば、口の端から液が溢れ出して。
キスだけなのに。
触れられてもいないのに。
触られているように体が反応し、力が抜けていく。
体を壁に押し付けられ、支えられているようにも迫られているようにも感じる体勢に、密着している安心感と、逃れられない当惑を感じた。
「・・・っ、れ・・・」
少しだけ待ってほしい、と体を押してみるが、それに応える様子は無くて。
啄むようなキスをしたり、息ができなくなるような深いキスをしたり、時折片方の唇だけを彼の口内で含まれながら舐められると、まるで堕ちていくような感覚を味わった。
「・・・っはぁ・・・ッ、はぁ・・・」
力が抜けきった体は言うことを聞かない。
けれど彼の服だけは強く握ったままで。
「そんな顔をされると、もっと虐めたくなる」
そう言って彼の手が頬を滑って。
それに体を震わせて。
「・・・っ」
自分が今、どんな表情をしているのかは分からなかったが、それをこれ以上見られたくなくて、思わず彼の胸元に顔を埋めた。