第90章 二人の
「普段、こういうものはしないだろ?」
言いながら、彼はそれを首からぶら下がったまま手に取って。
これを作ったことは、彼は知らない。
けどこの言い方だと、これが何かなのかという事くらいは、検討がついていそうだ。
「・・・私の秘密兵器だから」
誤魔化すように笑いながらそれを首から外すと、彼の手からもゆっくり離して。
それを解体してしまおうと奥の部屋へと向かいかけた時、握っていたその手は彼によって掴まれた。
「どうしたの・・・」
前回の時もそうだったが、今回も沖矢さんとのことは話さないと互いで決めている。
一応、直接会わない方法でコンタクトを取る、という事だけは伝えているものの、その理由は言っていない。
その曖昧さが、彼を苦しめていることも分かっていた。
けれど、言えば沖矢さんは赤井さんだとバレる上に、本当は沖矢さんではなく赤井さんと話していたこともバレてしまう。
何故ここまで赤井さんに協力的なのか・・・自分でも分からないが、今はそうするしかない。
そう脳裏で考えていた時。
「キスがしたい」
「え・・・っ」
手を掴まれた時点で心拍数は上がっていたものの、突然の言葉で更にそれは早さを増していって。
「キスが、したい」
至って真面目な表情で、私の目を真っ直ぐ見ながら、もう一度同じ言葉を吐いた。
「い、いいよ・・・?」
戸惑いながらも返事をするが、手は強く握られたまま、彼はその動きをしようとはしなくて。
「零・・・?」
不安になり名前を呼ぶと、彼は一歩をゆっくり進み、こちらへと近付いてきた。
その威圧感が凄く、思わず彼の一歩が出る度、後ろへと後退りをしてしまった。
「・・・っ」
狭い室内では壁に背がつくなんてあっという間のことで。
それに気付き一瞬壁の方へと横目で視線を向けた瞬間、そこにはスッと彼の手が置かれた。
「僕はひなたに、キスがしたい」
視線を彼へと戻す間も無く、今度は耳元で、低く艶かしい声で、そう囁かれた。