第12章 迫る影
まとめた荷物を持ち、玄関口で待つ透さんの元へと急いだ。
「透さん・・・!」
「ど、どうしたんです?」
扉を勢いよく開け、突然出てきた私に透さんが驚いて。
「私・・・っ、スマホを・・・!」
透さんの顔を見ては不安の声が漏れるように出て来て。気を抜くと涙が出てしまいそうだった。
「スマホ・・・?ああ、ひなたさんのスマホなら僕が持ってますよ」
そう言うとどこからともなくそれを取り出して、私の前に差し出した。それは確かに私のスマホで。
「よ、良かった・・・」
手渡されたそれを受け取った瞬間、今までの不安と共に力も抜けてしまいそうで。
試しに電源ボタンを押してみるが、問題なく動作は確認できた。
「男が落としたナイフと一緒に拾っておいたんですが、渡すのが遅れてすみませんでした」
「いえ・・・とんでもないです。ありがとうございます」
大したデータは入ってない。
そう思っていたけれど、今思えば最後の兄とのやりとり等が入っていた。それが無事だったことが今は何より嬉しくて、スマホを強く握りしめた。
「あ、準備できました?ここから少しだけ歩きますけど大丈夫ですか?」
「問題ないです」
そう返事をすると、荷物を詰めたカバンは透さんに取り上げられて。有無を言わせない笑顔に黙って従った。
施錠を確認し、透さんの車までゆっくりと歩いて。空気は益々冷たくなってきていた。
「・・・だいぶ寒くなっちゃいましたね」
手に息をかけ温めてみる。少しだけ息が白くて。
それを見る度に思い出すのは、幼い兄との思い出。よくこの時期になると、窓に息をかけては何かを書いて遊んでいた。
あの頃を思い出すと、記憶の中の笑顔につられて口元が緩んだ。
「・・・ひなたさん。手を出してください」
「手、ですか?」
そう言われたので右手をスっと差し出すと、透さんの左手に包まれ、そのまま彼の上着のポケットへ入れられた。
「え、あ・・・っ」
突然の行動に、心臓の音が手から伝わってしまうんじゃないか、と思うくらいには鼓動がうるさくなって。
「少しは温まりますかね」
そういう今日の透さんの手は、ポケットに入れていたせいか少し温かいような気がした。