第89章 夜桜と
「!」
そう考えながらポケットへと手を突っ込むと、ボタンのような何かが手に当たった。
それをゆっくり引き出せば、見覚えのある作りの盗聴器が指先にあって。
よりによって風見さんに仕掛けたのか、と小さくため息を吐いては、窓を開けてすぐさまそれを外へと投げ捨てた。
「・・・?」
風見さんが、何事かと不安そうにこちらを何度も確認する様子に気付き、それに対してへらっと笑ってみせて。
「すみません、ゴミがついていたのが気になったので」
「そ、そうでしたか。すみません」
そういってスーツを返すと、彼も一応は笑顔を見せて。
・・・本当はこの事を零に言うべきなんだろう。
でも何故か、心のどこかで鍵が掛かった。
風見さんやコナンくんを庇っている訳でも、これを無かったことにするつもりもない。
これを、コナンくんが仕掛けたという確証は無いから。
そう言い訳しながらも、心の中では黒い部分があったのも事実で。
・・・これは、私だけが知るコナンくんの弱みになる、と。
子ども相手に大人気無いことは百も承知で。
ーーー
警察庁に着くと、室内にある小さなベンチへと座らされた。
「ありがとうございました」
「いえ。降谷さんが来るまではこちらに居てください。何かあれば近くの者に」
「分かりました」
そう言って彼はすぐにどこかへと走り去って行って。
その背中を見つめながら、今日のことを零にどう話そうかと考えた。
だが、この異様な雰囲気に飲まれ、どうにも体も脳も思考能力も全てが萎縮してしまって。
ピリピリとした空気、難しい表情を作る人、風見さんや零のようなスーツを着た人達。
そんな人達を見ていれば少し気分が悪くなるようで、それから目を逸らすように視線を足元に落とした。
勿論仕事はそれだけではないが、世の中に悪いことをする人がいなくなれば、彼らの仕事は大幅に軽くなるのだろうに。
そんなどうしようも無いことを考えていた時。
「どうした、気分でも悪いのか」
「!」
突然肩に置かれた手に驚いてしまい、体を震わせながら視線を上げた。