第89章 夜桜と
「如月さんに何かあったら・・・」
わなわなと震える風見さんに、彼の恐怖の感情が痛いほど伝わってきて。
・・・そうか、そちらの方が申し訳ないか。
「すみません、次からは気をつけます」
私に何かあれば、零から叱咤されるのは風見さんだ。
危機感が無いと言われるのはこういうことなのに。
車のドアを開きながら心の中で、学習しない何度目かの反省をして。
「それと、今日は降谷さんが本庁に、と」
「本庁・・・?」
風見さんと共に車へと乗り込むと、互いにシートベルトを締める中、突然そう言われた。
今日はこの後、事務所に帰る予定ではあったけど。
何かあったのだろうか。
「何だか、連行されるみたいですね・・・」
冗談混じりでそう言うと、風見さんは困ったように小さく笑って。
やや和やかな雰囲気のまま、車は本庁へと向かって走り出した。
「そういえば、コナンくんって公安の方に仲良しな人でもいるんですか?」
「コナンくん・・・あの少年ですか」
本庁に向かう車内で風見さんにそんなことを聞いてみると、ああ・・・と思い出すようにその名を口にし、考え込むように眉間に皺を寄せた。
「いえ、自分の知る限りでは特に・・・」
「そうですよね」
ということは、彼が情報を手に入れたのは合法的な手段では無いということか。
きっと私と似たようなやり方。
零に近しい人間をターゲットに。
赤井さんの言っていたように、盗聴器・・・と、か・・・。
「・・・!」
まさか。
そうは思った。
「風見さん。そのスーツ、最近クリーニング出されました?」
「い、いえ・・・まだ・・・。・・・臭いますか・・・?」
だったら、と、自身のスーツを嗅ぎながら問われた風見さんの質問には答えないまま、赤信号の隙を狙ってスーツを脱ぐようにジェスチャーで指示した。
「ど、どう・・・」
「しっ・・・」
人差し指を口元に立て、喋らないように風見さんに指示をすると、スーツの裏側や襟、袖口などを念入りに調べて。
このスーツがそうとは限らなかったし、別の方法だって幾つもあった。
でも何故か直感で、そうではないかと思ってしまった。
そして、当たってほしくない感ほど、当たるもので。