第89章 夜桜と
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阿笠邸を出て視線を右に向ければ、相変わらず立派な建物が目に入って。
その二階の窓に、僅かに人影が見える。
『不服そうだな』
「そう見えますか」
その人影を僅かに睨めば、表情なんて確認はできないが、何となくそれに微笑まれた気がした。
『坊やには気をつけることだな。彼は公安の人間にも盗聴器を仕掛ける男だ』
・・・盗聴器?
「それって、今回のことですか・・・」
『さあ、どうだろうな』
ただしらばっくれているだけなのか、それとも今回のことに限らないと言っているのだろうか。
いずれにせよ、赤井さんの言葉通り注意は必要だ。
彼は自ら危険なことに首を突っ込む上に、そういうものに巻き込まれやすい。
・・・今まで注意を怠ったつもりは無いけど。
私としても、あまりそういう目に合わせたくはないから。
『まあ、俺が警戒するべきなのは君の方かもしれんがな』
それは私も同じだ。
本来、私が警戒すべきなのはコナンくんではなく、工藤邸に住み着いている人影の方だ。
『まだ技術は甘いが、磨けば立派な武器になる。これなら、あの男や組織が欲しくなってもおかしくはない。勿論、FBIもな』
「・・・お褒め頂き、光栄です」
白々しくお礼を言いながら、首からぶら下がるカメラの仕掛けられたペンダントの装飾部分を、指で軽く押し込み映像を切った。
『今度は、もう少し通信距離が取れると良いんだがな』
「別に赤井さんの為に作った訳じゃないです」
『でも、今回は俺の為だろう?』
・・・語弊はあるが、間違いはない。
それ故に言い返せないのが腹立たしい。
「通信距離が保てないので、切りますよ」
そう言いながら工藤邸に背を向け、数歩歩き始めた時。
『一つ、安室君に伝言を頼めるか』
その言葉に足を止めると、小さく振り返って。
『こちらは黒だと判断する、と』
・・・黒、とは。
単純に考えれば、何か悪い事が定まった事を連想させるが。
それが何の事なのかは分からない。
結局はただの民間人である私はきっと、知ることも無いのだろうけど。