第89章 夜桜と
「じゃあ、どうしてあの男と会うことになったの?」
「それは・・・」
・・・赤井さんから指示は無い。
寧ろ、きちんと繋がっているのか不安になってくる。
でも、僅かな特有のノイズが聞こえてくるということは、通信が切れてはいなさそうだから。
「・・・初めて会った時は、透さんに連れて行かれたの。理由は言えないけど」
これに関しては、口止めされているというよりは、分からないからと言った方が正しいけど。
「それはバーボンとして?」
「どうだろ・・・纏ってた雰囲気としてはそうだったけど・・・」
この話を切り出した時、私の記憶はまだ完全ではなかった。
ただその時彼が、バーボンの・・・と言いかけたことを僅かに覚えている。
しかし実際に呼ばせたのは安室透の名だ。
でも降谷零としての仕事も兼ねていたんだろうし。
結局、どの立場で会っていたのかはハッキリしなくて。
「あの男は、それよりもっと前から私の事知っていたようだけど」
「・・・みたいだね」
・・・彼はどこまで状況を飲み込んでいるのだろう。
やはりこちらのガードが固い分、彼のガードも同じように固い。
『許せるのはそこまでだ。引き上げろ』
暫く沈黙を通していた赤井さんが、突然そう言ってきて。
まだ何も話なんてできていないに等しいが、彼とは悪い状況にしておきたくないのも本音だから。
「私、そろそろ戻らないと行けないから行くね」
「もう?」
徐ろに立ち上がりながらそう言えば、本心はコナンくんと同じだよ、と心の中で呟いて。
「事務所の仕事もしないといけないからね。・・・あ、それと・・・」
適当な言い訳をして、持ってきた唯一の荷物のバッグを手にしながら、私は言葉を続けた。
「あんまり、透さんや公安の人にちょっかい出さないであげてね」
そう言った時のコナンくんは、一瞬だったが明らかな動揺を見せた。
やはり、彼が探りを入れたのは公安の人で間違いはない。
それが誰なのか、どうやったのか等はまだ分からない
が、不確かだったことに確信だけはできた。