第89章 夜桜と
「自殺に偽装している、と思われた時点で、犯行が奴らにしては雑だと思うんだ」
・・・成程、と言っていいのだろうか。
私はまだ、組織の人間の始末の仕方を知らない。
分かっているのは、残忍さや手段を選ばないことだけ。
「・・・如月さんは、どうして自分があの男に狙われてたのか、知ってるの?」
これは彼の純粋な質問か。
それに対して赤井さんから何も反応が無いということは、私の言葉を話して良いということで。
「透さんの反応が見たかった・・・って、言ってたけど」
「安室さんの?」
・・・どこまで言っても良いだろう。
この事は赤井さんも知っているのだから、ガイドラインを引いてくれてもいいのに。
「完璧な彼の顔が崩れる様が見たい、って」
自分で言っていて、やはり理解し難い理由だ。
勿論、その理由だけではないけれど。
「あとは薬の実験台・・・とか」
でも本当の理由はきっと別にある。
絶対にそれだけでは無いはずだ。
零が警察官かどうか探る為、そして私がその仲間かどうか探る為・・・というのは、私の想像だけれど。
何より気になっているのは、あの男が私の趣味について知っていたことだ。
それを利用しようともしていたんだろうけど。
・・・でも、その情報は一体どこで。
「それは、何処で聞いたの?」
僅かに彼から逸れていた視線を元に戻せば、悪戯っ子のような笑みを浮かべた彼の顔が目に入った。
・・・ああ、はめられたのか。
「コナンくんって、結構意地悪だよね」
「如月さん程じゃないよ」
ここまであの男との会話を覚えていれば、それを話した場所を覚えていないはずがない。
赤井さんならこれくらいのこと、予想できそうだけど・・・敢えてコナンくんの質問に答えさせたのだろうか。
「・・・でも、ごめん。これを話した場所は本当に覚えてないの。どこかの、廃工場みたいな場所だったとは思うんだけど」
白い霧がかかったように、その時の記憶は酷く曖昧で。
勿論、はっきりと覚えていることもあるけど。
大概そういうものは、良いことではないもので。