第89章 夜桜と
「・・・ひなた」
「な、何・・・?」
改まった様子で名前を呼ばれると、少しだけ背筋が伸びて。
「あの時連れ出しておいて何なんだが、もう少しコナンくんに接触できないか」
「コナンくんに・・・?」
確かに、話は色々途中だった。
私も彼がどこまで情報を掴んでいるのかは知りたい。
・・・けど。
「それ、は・・・」
沖矢さんには、自分がいない時にあの話はしないように言われている。
例えそれがコナンくんだとしても。
それを律儀に守る必要があるのかどうかは分からないが・・・。
「・・・いや、すまない。変なことを言った。気にしないでくれ」
迷う様子を見せた私に、彼はそこで話を切った。
彼の力になりたい。
けど、沖矢さん・・・正しくは、赤井さんの言葉も何故か無視はできなくて。
「・・・私のやり方でも良い?」
一つだけ、私にもできそうなやり方がある。
零になるべく心配を掛けず、赤井さんの言葉を守りながらコナンくんの話を聞く方法を。
「それは無茶なやり方ではないだろうな?」
「全然。コナンくんに会うだけだよ?」
無茶って何をするの?と少し笑いを含みながら付け加えると、彼は難しい顔をしては、まだ疑いは残っている様子で納得の言葉を吐いた。
でも、この言葉に嘘はない。
コナンくんに、会うだけだ。
「どこまで知ってるか、聞いておけばいいんだよね?」
そう確認すると、彼は表情を崩さないままこちらに体を向け、手を繋いでいない方の手でそっと私の頬に触れた。
「・・・変なことには首を突っ込むなよ」
頬に感じた冷たさに触れられた方側の目を細めると、もう十分に突っ込んでいる気もするけど、と心の中だけで思って。
彼には小さく口角を上げるだけの返事をすれば、優しい口付けを一つだけ落とされた。
少し、物足りないと感じてしまったのは私だけだろうか。
そんな事を思いながら、唇が離れると彼の体に静かに身を寄せた。