第89章 夜桜と
「綺麗・・・」
無意識に、そう言葉が出た。
「近所の人達で管理をしているそうだ。あまり知られてはいないみたいだが、ここの掃除を手伝った時に教えてもらってな」
彼の交友関係は相変わらず底知れない。
どういう経緯でそうなったのかは分からないが、別にそれは知らなくても良い事かと、もう一度桜を見上げ直した。
「ひなたが行きたかった場所には明日改めて・・・」
「ううん、ここで十分」
もう十分過ぎるものを見ている。
結局私は、彼と二人ならどこでも良かったのだから。
「本当に、すごいね・・・」
花見は兄との記憶にも無いことだった。
施設の庭に小さな桜の木があったような気もするが、本当にそれが桜だったのかも定かではない。
そんな曖昧な記憶だけでなく、しっかりした記憶が残ることに、嬉しさと言うよりは安心感が刻まれていった。
「本当は、昼間の神社を一緒に回ろうかと思っていたんだが」
それを聞いて、視線を桜から彼へと移して。
「・・・今日は最初から、ひなたの傍にいた」
そう話す彼の言葉に、普通なら驚くところなのかもしれない。
けれど神社で彼と会ってからは、ほんの少しだけそうでないのかと思っていた自分もいて。
「それは、公安として?」
護衛をつけないと彼が言った時から、心のどこかでは違和感を感じていたんだと思う。
「・・・そのつもりだったんだがな」
被っていたフードで、更に顔を隠すように前を少し引っ張ると、小さな吐くような笑いと共にそう小さく呟いた。
「FBIが居ることは、最初から分かっていたのか?」
自然な流れで取り調べになっていることには気付いたが、自然な流れで話せるならと、首を振って答えた。
「コナンくんと待ち合わせはしてたんだろうけど・・・それも確かかどうかは・・・」
これは私の勝手な推理だ。
できれば沖矢さんと繋がりがあったのかどうかだけでも確認はしておきたかった。
なんて彼に言えば、負い目を感じてしまうだろうか。