第88章 感覚で※
「どうぞ」
戸惑いつつも、彼に誘導されるがまま、部屋の中へと足を踏み入れた。
モノトーンで統一された内装に、落ち着きとお洒落感を感じつつも、ここは何処なのかという疑問が大きく残り過ぎていて。
・・・これからここで話をするのだろう。
二人きりの取調室といったところか。
なんて思っていた時。
「僕のセーフハウスの一つだ」
「!」
靴を脱いで廊下を進み、一つ目のドアを開けながら彼はそう教えてくれた。
そういえばセーフハウスは幾つかあると、以前言っていた。
その一つが、ここ・・・なのか。
「あまり使ってはいないが、あそこからはここが一番近かったからな」
ドアを開けると、やはりここも極端に家具の少ない部屋が目に入って。
それでも掃除は行き届いている様子に、どことなくこの部屋に彼らしさを感じていた時だった。
「・・・ッ!!」
突然、手首を掴まれ引かれたかと思うと、気付けば彼の腕の中に居て。
その中で僅かに苦しさを感じる程度に強く抱き締められた。
「れ・・・」
突然過ぎる行動に驚いたが、意外と冷静な気持ちは保ったままで。
彼がこうなる理由も、何となくだが分かる気もするから。
「・・・情けないな」
彼の、匂いがする。
でもほんの少し、違う匂いもする。
いつも着ている服とは違うからだろうか。
見慣れないパーカーは、誰かから借りたものなのか。
そんなことを思いながら、彼の言葉に否定するように小さく首を振った。
「暫く帰れなくてすまなかった」
その言葉に、もう一度首を振って。
「・・・会いたかった」
その言葉には、小さく頷いた。
「っん、ぅ・・・」
抱きしめられていた腕を少し緩めると、その手で顎を持ち上げられて。
食べられるようなキスをされた。
知らない場所だからだろうか。
どこか背徳感を感じるのは。
すごく、いけないことをしているような気になる。
「・・・ふ、っんぅ、ン・・・ッ」
舌が絡め取られ、彼の舌が口内に入って動き回る度、簡単に意識が遠くなっていくようで。