第88章 感覚で※
「梓さん・・・!」
「・・・?」
突拍子も無い私の言葉に、疑問符だらけの表情を見せる彼の肩に手をついては、その顔を見下ろして。
「お花見、誘われてたの・・・!」
すっかり遅くなってしまって、もう話に上がっていた時期なのに。
零に話しておいてほしいと頼まれていたことを、今更思い出すなんて。
「その事か」
彼も何かを思い出すように納得すると、起き上がらせた私の体を徐ろに引き寄せ、彼の体の上に被さるように体を密着させた。
「梓さんから聞いている。今回は悪いが、断らせてもらった」
ああ、やっぱり一緒に行くことは叶わなかったか、と少し残念に思いながらも、最初からそうだと思っていた所もあり、落胆度合いで言えばあまり高いものでは無かった。
「ひなたも悪いが、梓さん達とは・・・」
「大丈夫、行かないよ」
零が居ないのに行けるはずがない。
小さな小さな期待はしていたけど、こうして二人で居られるならお花見に行けないくらい、なんてことない。
・・・なんてこと。
「その代わり、僕と二人で行かないか」
なんてこと・・・あった。
それは、今感じた嬉しさが証明している。
「いいの・・・!?」
もう一度、上半身を起き上がらせては見下ろすように彼を見て。
「梓さん達とは予定が合わなかったが、ひなたと合わせることはできるだろう。あまり長い時間はできないが」
そんなの構わない。
彼との思い出が一つ増えるということだけで、全身が喜びで震えるようだった。
こんな些細な出来事で喜べるのは、私が単純過ぎるからなのか。
「・・・ありがとう」
きっと、梓さん達と行きたかったこと、彼は気付いていたに違いない。
でも少しの危険に晒すこともできなくて、この選択をしてくれたのだろう。
「それは行ってから改めて聞かせてくれ」
ああ、こんな甘い時間を過ごすのはいつぶりだろう。
再び引き寄せられたと思うと、私からするように唇を重ね合わせて。
でも。
この少しの幸せが、時に怖くなるのも事実だ。