第88章 感覚で※
「・・・ごめん」
「どうして謝る」
クスクスと笑う彼に、だって・・・と言葉を続けながら、指の隙間から彼を覗いて。
「朝、防いじゃったから・・・」
正直な所、今日はもう会えないと思っていた。
自分でしておきながら、いつもその行動には後悔と不安がくっ付いていて。
今朝の自分でした妙な願掛けのようなものも、不吉な方へ転がるのではとずっと不安だった。
「あれは堪えたな」
「ご、ごめん・・・」
顔を覆っていた手を優しく掴んでは、軽い笑いを漏らしながら退かされて。
目が合った瞬間、そこから視線を逸らしたいのに逸らせなくなって。
また、彼の顔が近くなって。
硬く冷たい床の上で、互いの不安を埋め合うように何度も唇を重ね合わせた。
ーーー
「そういえば」
ご飯も入浴も済ませ、ベッドに横になり彼の腕の中で温もりを感じながら、こちらから話を切り出した。
「話したいことって・・・何?」
良い話で無いことは最初から分かっている。
だからその覚悟だけはできていて。
なるべく、どんな話でも動揺はしないようにと、必死に自分へ言い聞かせた。
「・・・あの薬の、副作用についてなんだが」
ああ。
なんだ。
その事か。
予想通り、決して良い話では無い。
それは分かっている。
でもそれを彼から話してくれることに、不謹慎にも喜びしか感じられなくて。
「うん」
彼の胸に顔を埋めながら、彼の鼓動を感じるように目を閉じた。
それから彼が話してくれたのは、数時間前に赤井さんから聞いた話と同じ話で。
でも、同じように聞こえなかったのも確かだ。
「・・・騙すようなことをして悪かった」
「別に騙されてたなんて思ってないよ」
口内を確認させてくれなんて言えなかったと言う彼に、当然だと小さく笑って。
この話を今、少しでも軽く受け止める事ができたのは・・・赤井さんのおかげなのだろうか。