第88章 感覚で※
「ひなた・・・」
・・・声が・・・震えて、いる。
初めてじゃ、ない。
こういう彼を・・・私は一度見た事がある。
あの日、病院で・・・。
「・・・何・・・?」
隣の部屋から漏れてくる明かりだけが、お互いの横顔を照らして。
それでも、透き通るような、何でも見透かしているような、綺麗な彼の瞳だけはキラキラと輝いていて。
・・・それはいつもより、彼の目が水分を多く含んでいるせいだろうか。
「・・・大丈夫だよ」
彼の背中にそっと腕を回し、自分の方へと引き寄せて。
何に不安を感じているのか、そもそも彼が不安を感じているのかは分からなかったが、そう一言だけを彼に掛けた。
「何か、あった?」
聞いたところで私には何もできない。
でも、聞くことはできる。
組織のことを知っているからこそ、できることだから。
「・・・ひなたに、聞いてもらいたいことがある」
そう彼が言った瞬間、何の話なのかという不安より、彼が何かを話してくれる、という嬉しさの方が勝ってしまった。
何度か小さく頷くと、彼の背中に回していた腕を解いて。
目が合うかどうかという所まで彼の顔が上がった瞬間、突然唇を塞がれた。
「ンん、ぅ、ん・・・ッ」
なんだか・・・久しぶりな気がする。
そんなことは、ないのだけれど。
少し荒っぽいキスに飲まれながら彼の服を掴んでは、一瞬だけ、数時間前の赤井さんの言葉が脳裏に過ぎった。
・・・今日は、毒を仕込んでいるかどうか確認しないんだ、とも。
「・・・?」
いつもより激しめだったせいか、唇が離れた後も息は暫く整わなくて。
その様子を凝視する彼に、恥ずかしさと戸惑いで小さく首を傾げた。
「早く触れたくて、おかしくなるかと思った」
ふっと優しい笑顔を見せたかと思うと、突然そんなことを言われて。
言われたこちらがおかしくなってしまいそうな程に顔へ熱を集中させると、咄嗟にその顔を両手で覆った。