第88章 感覚で※
「・・・もう少し、このまま」
・・・やっぱり、いつもの零らしくない。
きっと疲れているのだろう。
そう思い、何も言わずただ静かに彼が離してくれるのを待った。
「・・・・・・」
互いに何も話さない、本当に静かな時間が流れて。
数分は経っただろうか。
それでも彼は回した腕を離す気配が無くて。
「少し、ベッドに横になったら・・・?その間にご飯用意するから・・・」
流石にこのままではお互い体制的にキツいと、背後の彼にそう声を掛けてみるが、返事は来なくて。
顔はすぐ側にある。
彼のゆっくりとした吐息が聞こえてくる程に。
でも表情は肩に押し付けられてしまっている為、確認する事はできない。
まさか寝てしまっているのでは?と、自身の手を彼の頭へと伸ばしてみて。
そっと、彼の綺麗な金髪へと触れて頭を撫でた。
「・・・大丈夫?」
そう問い掛けてみるも、返事はやはり無い。
この状態で寝てしまったんだと確信すると、一度後ろを振り向く為に体を動かそうとしてみた。
「・・・・・・っ」
が、彼の腕の力が強過ぎて。
ぴくりとも動かすことはできなかった。
「ね・・・ベッド行こう・・・?」
流石に体も心臓も持たないと、軽く彼の腕をぺちぺちと叩いてみて。
「・・・ッ・・・」
その瞬間、抱き締める彼の腕の力が強くなった。
苦しくて、息が止まってしまいそうな程、痛くて。
「零・・・っ」
一瞬それに顔を歪ませながらも、絞るように名前を呼んだ。
・・・途端、それが合図のようで。
「・・・っ!?」
事が行われたのは一瞬だった。
気付いた時には、天井を見ていて。
さっきまで温かかった背中が冷たい床についていることも、把握するまでに暫くかかった。
「れ、い・・・?」
いつものように、彼が覆い被さっている。
でも表情は・・・いつもの彼じゃない。
「ど、した・・・の・・・」
何故。
どうして。
今にも泣いてしまいそうな顔なの。