第88章 感覚で※
あれから真っ直ぐ零の家へと帰って。
風見さんは本庁に戻ると言っていたから、別の公安の誰かはここを見張っているのだろう。
必要無いとは言い切れないが、こういうことに公安の人達を駆り出してしまうのは、本当に申し訳なくて。
自分なんかの為に。
・・・こういう考えが良くないのかもな、と赤井さんの言葉を思い出しながら、ベッドへと勢いよく倒れ込んだ。
「・・・・・・」
零の、匂い。
でもそれは微かに感じるだけ。
それは、彼がここにいる時間が少ないからか、自分がその匂いになれてしまったからか、それとも、自分もその匂いに・・・なっているか。
いずれにせよ、少しだけ寂しく感じてしまって。
「・・・零」
今は呼んでも大丈夫でしょ、と。
胸が苦しくなるような思いの中、小さな声で布団の中に名前を吐き出した。
ーーー
「!」
それから彼が戻ってきたのは、ほんの数時間後のことで。
連絡も無いままだった為、玄関の扉が開く音に気付くと急いでそこへと向かった。
「おかえり・・・っ」
別れる前とは違う服装で帰ってきた彼の姿が目に映ると、途端に何かが溢れてくるようで。
「・・・ただいま」
一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにいつもの優しい笑顔を見せては、そう一言返された。
・・・いつもの、彼だ。
「ご飯、まだだよね・・・?」
半日も離れていなかったのに。
なんだか久しぶりに感じるのは・・・何故だろう。
「ああ、ひなたもまだだろう?すぐ何か準備する」
「ううん、私がす、・・・る・・・」
疲れているだろうからと、彼より先に冷蔵庫のある方へ向かいかけた時、突然背後からずしっとした重さを感じた。
それは彼が背後から抱き締めたんだということはすぐに分かったが、急なことで戸惑いの方が大きく湧いてきて。
「・・・どう、したの・・・?」
いつもの彼じゃないような気がして。
顔も見られないまま、前に回された腕へ静かに触れた。