第87章 飲んで※
「・・・言ってた話は、それですか」
「大半はそうだ。安室君が見張っているだろうが、少し君の様子を見ておきたいというのもあった」
いつもは勝手に見てるくせに。
直接、確認せずにはいられなかったということか。
「君も何か、言いたそうだな」
「!」
彼の言葉に、肩を震わせ反応した。
そういう雰囲気は出していないつもりだったけど。
・・・やはり私は、嘘をついたり隠し事をするのは不向きなようだ。
「・・・赤井さんに、謝りたいと思っていました」
「ほう?」
きっとこういうのは、目を見て言わなければいけないのだろうけど。
目の前なのに、どうしても彼の目が見れなくて。
「貴方の方を忘れてしまえたら良かった、なんて言って・・・すみませんでした」
謝るくらいなら言わなければいいのに。
そういう事は大概、言ってしまってから気付くもので。
『・・・俺なら良かったんだがな』
あの日病院で、そう聞こえた気がした声は、時折罪悪感を生んでいた。
あれが例え空耳だったとしても・・・言うべきでは無かったことは確かだと、今更ながら思っていて。
「珍しいな。君のそんな態度は」
自分でも、そう思う。
どこか・・・弱気になっている。
「彼と何かあったか」
・・・あった、のだろうか。
「分かりません・・・」
最近の彼も、自分も分からない。
ただ、それだけ。
・・・それだけ、だ。
「水無怜奈から僅かに聞いたが、組織での状況は良くないみたいだな」
確かに、良い状況とは言えない。
特にここ最近は。
でも私にできることは何も無い。
彼からも、何もするなと言われている。
「私って・・・何の為に彼の傍にいるんでしょうか」
そうしたいと決めたのは私だ。
彼もそうしてくれと言ってくれた。
でも本当にそれだけで良いのか。
何もせず、ただ隣に居ることだけが正解なんだろうか。
・・・何かしたところで迷惑になることは分かってる。
しない方が良いことも分かっている。
でも、そんなの。
「君が居なければ、彼はどうなる」
「え・・・?」
私が、居なければ?
彼は・・・。
「・・・・・・」
彼は、多分。
『壊れてしまいます』
・・・壊れる。