第87章 飲んで※
もう零は大丈夫だと言っていたけど。
「彼は君を思って言っていないようだが、俺は君を思って言わせてもらう」
こういう所まで彼らは反発するのかと思うと共に、これから来る言葉に妙な緊張感を覚え、思わず息を飲んだ。
「あの薬の副作用に、自分を痛めつける行為をする事例が出てきた」
「痛めつける?」
珍しくオブラートに包んだような物言いで話す彼に、少し意外さを感じて。
確かに副作用はどういうものが出てくるか分からないとは言っていたが・・・何故、零はそれを隠していたのだろう。
・・・いや、そもそも。
「零はそのこと、知らないかもしれな・・・」
「知っているはずだ。俺が伝えたんだからな」
・・・だったら、どうして。
どうして隠していたのだろう。
「その多くが、口内に少量の毒を仕込んではスリルとして楽しんだり、傷をつけ痛みを伴うことに快感を覚えるようになるようだ」
口内に、毒。
そうか、さっき沖矢さんが口内を探っていたのは・・・それを仕掛けていないか確かめる為。
そしてその行為は、零にも心当たりがある。
最近、彼の指が幾度となく口内を埋めつくしていた。
それは名前を呼ばせない為とも言っていたが、他にも理由はあるような言い方だった。
まさかその理由が・・・毒を仕込んでいないか確認していたなんて。
そうと決まった訳では・・・ないけど。
「私は・・・そんな事しませんよ」
「そんなことは俺も彼も分かっている」
だったら。
「分かっていても、確認せずにはいられないだろう」
・・・赤井さんの言いたい事は分かっている。
分かっているつもりだ。
実際、自分の意志とは関係無く記憶を無くしているのだから。
副作用として、無意識にそういうことをしていても何ら不思議ではない。
でも、自分がそういうことをしているんじゃないかと疑われていたと思うと、少し情けなく、やるせない気もしてしまって。