第87章 飲んで※
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「・・・・・・」
阿笠邸が見えるギリギリの位置で、風見さんの車は止められて。
それを確認すると、阿笠邸の入り口から入り、裏手を通って工藤邸へと移動した。
なんだか泥棒のようだと感じながら工藤邸の裏口をノックすると、沖矢さんがすぐに扉を開けてくれて。
「どうぞ」
促されるまま、部屋へと足を踏み入れた瞬間。
「・・・ッ!!」
手を強く引かれたかと思うと、背中は閉められた扉に勢いよく貼り付けられて。
警戒心を無くしていた訳では無いが、それはあまりにも突然だったから。
思いがけず彼の思い通りに体を動かされてしまった。
・・・彼が突然行動をとるのは、今に始まったことではないけど。
「口を開けて頂けますか」
彼の体で逃げ場を無くされたかと思うと、いきなりそんな事を言われて。
「ど、どうしてですか・・・」
「口を、開けて頂けますか」
私の質問には答えない。
でも彼の命令には従わなければならないようで。
同じ命令を二度されると、流石にその威圧感に耐えられなくなって小さく口を開いた。
「もう少し、大きく」
そう言われた瞬間、持って来ていた警戒心が最大限に働いた。
何かされる、なんて考えるのは自意識過剰なのかもしれないが、でも彼ならしかねないから。
「何かしたら、零に赤井さんのこと全部バラしますよ」
「脅しのつもりか?」
見た目も声も、沖矢昴のまま。
でも口調が赤井秀一に変わった。
その瞬間、彼の指が顎に添えられ、くいっと少し上に向けられて。
「安心しろ、少し確認するだけだ」
確認?何を?
そう聞きたいのは山々だったが。
「・・・・・・っ」
何も問えないまま、静かに口を開けた。
「っン、ぁ・・・っ!?」
その最中、何故か唇の隙間から沖矢さんの指が侵入してきて。
驚きと戸惑いで目を見開き、彼の手を咄嗟に掴んだ。
「ジッとしてろ」
意味が分からない。
そう思いつつも、抵抗できる術は無くて。
何もしないと言ったくせに。
いや、信じすぎた私も悪い、と心の中だけで自分と沖矢さんに罵声を浴びせ続けた。