第87章 飲んで※
「では、ここだな」
「!?」
聞いておいて、と心の中で反論してみるが、きっとこれも彼には聞こえているのだろう。
「ひなたがしたい場所でしても、お仕置きにはならないだろ」
全部顔に出てしまうのだろうな、と咄嗟に向けた視線を顔ごと逸らせば、何故か体の中の熱が軽く暴走を始めた。
「鏡があるから、か?」
「!」
・・・どうやら彼には最初から、私がベッドを選ぶということが分かっていたようだ。
彼の言う通り、脱衣所であるここには一際大きな鏡がある。
それに自分の姿が映るのが嫌で。
見てなんていられないから。
だから消去法でベッドを選んだのに。
「と、透さん・・・っ!?」
突然壁から体を剥がされたかと思うと、鏡の方へと体を向けられ、その背後から逃げられないように彼は私の体に腕を回した。
「目を背けるな」
そう言って、彼は背後から私の首筋に口付けをして。
「・・・ッ・・・」
鏡に映る、彼の姿から目が離せない。
同時に自分の体も目に入るのが、嫌だけど。
「ひぁ・・・っ、だめ・・・!」
「今日の駄目は、全て良いと取らせてもらう」
肩甲骨の辺りから首筋まで、柔らかく温かい感触が駆け抜けて。
彼の舌が這ったということはすぐに分かる。
逃れようにも逃れられない状況に、体ばかりが熱を持ち、まだ冷静さを保っている脳とで反発を始めた。
「ひなた」
彼の左手が顎の辺りを、右手は太ももの辺りを滑ってきて。
「・・・・・・ッ」
耳元へ低い声で名前を呼ばれれば、反応しない訳が無い。
「バーボンは、命令に従わない女性を傍には置かない」
顎に添えられていた彼の手から、一本の指が口内に伸びてきて。
何も言わず、今は彼の言葉に耳を傾けろと言うことなのか。
「勝手に行動する事も、許しはしない」
「ん、ぅ・・・っ」
・・・過去の事を叱られているのか・・・釘を刺されているのか・・・。
これが彼がお仕置きと共に言っていた、説教というものだとは思うが。