第12章 迫る影
気づいたらいつの間にか床に転がったまま眠っていて。硬い床で寝てしまったせいか、体の節々に違和感を感じる。
「・・・いたた・・・っ」
普段の寝起きよりも数倍重い体を起こし、スマホで時間を確認する。もう時刻は夕方5時になるところで。
さすがに今日は寝過ぎている。それでも寝足りない気がするのは何故だろう。
喉が渇きを訴える為、冷蔵庫を開き水を1本取り出す。それを何口か飲んで、ようやく目が覚めてきたようだった。
床に置きっぱなしだったカバンを拾い、リングの存在を確認する。少し仰々しいそれを握る手に力が入った。
沖矢さんに出会ったことは間違いだった。
それは確信できることで。
いや、そもそも。
コナンくんに出会ったことか。
沖矢さんと会うきっかけを作ったのは彼だ。でもコナンくんに出会うきっかけは私が毛利探偵事務所を選んだからだよな、なんて意味のない考えをしてはため息をついて。
その後、適当に夕飯を済ませ、ミステリートレインのことについてスマホで調べた。
どうやら車内で推理問題が出るらしい。そういうのは苦手なんだよな・・・なんて思いながら列車の豪華な写真に呆気に取られた。
でも、個室のある列車なんて乗ったことない。それに関しては少しだけワクワクしてしまう自分もいて。
透さんと一緒に乗れたら楽しいんだろうな・・・と叶うはずもない願望を抱いて、勝手に悲しくなりそのページを閉じた。
明日はポアロで仕事だ。
昼間あんなに寝たのに何故かもう眠い。
その眠気に負けて、スマホでアラームをセットするとすぐに布団に潜り込んだ。
それからの数日間はあっという間に過ぎていった。
あれから透さんに会うことはなかったけれど、家から出る時は必ず透さんにメールを送った。3日もすればそれは慣れていて。
ちょっと特殊な恋人ごっこだと思えば少しは楽しんでできた。
あと2日で約束の週末がやってくる。
何をするのか具体的には沖矢さんから知らされていなかったが、ぼんやりとした緊張感はあった。
不思議とこの数日間、透さんに会いたい気持ちは抑えられていて。寧ろ週末がくるまでは会いたくないとすら思っていた。